「子どもが生まれたら学資保険」は昔の常識だ。2026年5月現在、学資保険の返戻率は104〜106%程度。一方、新NISAのつみたて投資枠でS&P500に月15,000円を18年間積み立てた場合、過去の平均リターンに基づく試算では約646万円になる。

筆者は編集部で実際にどちらも検討した経験がある。結論から言うと、「どちらが得か」は家庭のリスク許容度で決まる。この記事では、同じ月15,000円・18年間という条件で両者の受取額をシミュレーションし、元本割れリスク・流動性・税制の違いを数字で整理する。

学資保険の仕組みと2026年時点の返戻率

学資保険は、毎月の保険料を払い込み、子どもが18歳(大学入学時)に満期保険金を受け取る貯蓄型保険だ。契約者(親)が死亡した場合は以降の保険料が免除され、満期金は予定通り受け取れる「保険料払込免除特約」が付いている点が最大の特徴になる。

2026年5月時点の主要商品の返戻率は以下のとおりだ(ソニー生命 学資保険明治安田生命 つみたて学資JA共済 こども共済 各公式サイトより)。

商品名払込期間返戻率(目安)
ソニー生命 学資保険III型10年払済約105.5%
明治安田生命 つみたて学資15年払済約104.7%
JA共済 こども共済18年払済約104.0%

月15,000円を18年間(216回)払い込んだ場合の払込総額は324万円。返戻率105%とすると、受取額は約340.2万円、つまり利益は約16.2万円になる。

ポイントは「元本割れリスクがほぼゼロ」であること。中途解約しなければ、契約時に確定した金額が受け取れる。逆に言えば、18年間の資金拘束と引き換えに年利換算0.3%前後のリターンを得る商品だ。

新NISAつみたて投資枠でS&P500を18年積み立てた場合のシミュレーション

新NISA(2024年1月開始)のつみたて投資枠では、年間120万円まで非課税で投資できる。月15,000円(年18万円)はこの枠に収まる。S&P500連動の投資信託(eMAXIS Slim米国株式など)は信託報酬が年0.09%台と低コストで、つみたて投資枠の対象商品に含まれている(金融庁 つみたて投資枠対象商品一覧)。

S&P500の過去30年間(1995〜2024年)の年平均リターンは約10.2%(配当再投資・円建て換算前のドルベース、S&P Dow Jones Indices より)。ただし為替変動や将来のリターン低下を考慮し、ここでは年利5%・7%・10%の3パターンで試算する。

年平均リターン18年後の評価額払込総額利益
5%(保守的)約524万円324万円約200万円
7%(中央値)約646万円324万円約322万円
10%(過去平均に近い)約900万円324万円約576万円

年利7%の場合、18年後の受取額は約646万円。学資保険の340万円と比較すると約306万円の差が生じる。さらに新NISAなら運用益はすべて非課税だ。

計算式は複利の将来価値(FV)で、月利 = 年利÷12、積立月数 = 216回として FV = 15,000 × ((1+月利)^216 − 1) ÷ 月利 で算出している。

学資保険 vs 新NISA S&P500|5つの比較ポイント

リターンだけ見れば新NISAの圧勝に見えるが、「保険」と「投資」は性質がまったく違う。以下の5項目で整理する。

1. 元本割れリスク

学資保険は中途解約しない限り元本割れしない。一方、S&P500は過去に何度も大幅下落を経験している。リーマンショック(2008年)では最大約−50%、コロナショック(2020年3月)では約−34%の下落があった。18年という長期では回復する可能性が高いが、受取時点が暴落直後にあたる「出口リスク」はゼロではない

2. 流動性(途中で引き出せるか)

学資保険を途中解約すると、返戻金が払込額を下回る(元本割れ)ケースが多い。特に契約後数年は解約返戻金が極端に少ない。新NISAの投資信託はいつでも売却できるため、急な出費にも対応しやすい。ただし売却時に相場が下がっていれば損失が出る点に注意が必要だ。

3. 税制

学資保険の満期保険金は「一時所得」に該当し、利益が50万円以下なら課税されない(国税庁 No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき)。返戻率105%で利益16万円なら税金はかからない。

新NISAは運用益が非課税のため、仮に300万円の利益が出ても税金はゼロだ(金融庁 新しいNISA)。いずれも非課税で済むケースが多いが、新NISAの方が非課税メリットが大きくなる可能性が高い。

4. 万一の保障

学資保険は契約者(親)が死亡・高度障害になった場合、以降の保険料が免除される。この「保険機能」は投資信託にはない。新NISAで同等の保障を得るには、別途定期保険(掛け捨て型)に加入する必要がある。30歳男性で死亡保険金500万円の定期保険は月1,000円前後から加入できる。

5. 手間と心理的負担

学資保険は契約したら放置でよい。新NISAは証券口座の開設・積立設定が必要だが、一度設定すれば自動引落で手間はほぼかからない。ただし相場下落時に不安で売却してしまう「狼狽売り」のリスクは本人次第だ。

比較項目学資保険新NISA S&P500
18年後の受取額(月15,000円)約340万円約524〜900万円
元本割れリスクほぼなしあり(短期〜中期)
途中引き出し元本割れの可能性大いつでも可能(時価)
税制一時所得(50万円以下非課税)運用益すべて非課税
万一の保障保険料払込免除ありなし(別途保険が必要)
手間契約後は放置初期設定のみ(以降自動)

「併用」という第3の選択肢

実は「学資保険か新NISAか」の二者択一にする必要はない。たとえば以下のような配分も考えられる。

  • 学資保険に月5,000円(18年で108万円払込 → 約113万円受取)=最低限の教育資金を確保
  • 新NISAに月10,000円(18年で216万円払込 → 年利7%なら約431万円)=上乗せリターンを狙う

合計の月負担は同じ15,000円で、受取額は約544万円(学資保険113万円+新NISA431万円)。万一の保障も一部確保しつつ、投資のリターンも取りに行く折衷案だ。

編集部で読者アンケートを取った感触では、「全額投資に振り切るのは怖い」という声が多かった。投資経験が浅いうちは、学資保険で心理的な安全網を持ちながら新NISAに慣れていく方法が現実的かもしれない。

結局どちらを選ぶべきか|家庭別の判断基準

結論から言うと、以下の基準で判断するのが合理的だ。

学資保険が向いている家庭:

  • 投資経験がなく、相場下落に耐えられない
  • 18年後に確実に決まった金額を受け取りたい
  • 別途、死亡保障の保険に入る予定がない
  • 貯蓄が少なく、強制貯蓄の仕組みが欲しい

新NISA(S&P500積立)が向いている家庭:

  • 18年間の長期投資に耐えられるリスク許容度がある
  • すでに生活防衛資金(生活費6ヶ月分以上)を確保している
  • 死亡保障は掛け捨て定期保険で別途カバーしている
  • リターンの最大化を優先したい

どちらにも当てはまる要素がある場合は、前述の「併用」パターンを検討しよう。大事なのは、教育資金という「使う時期が決まっているお金」であることを忘れないことだ。18年後に元本割れしていても「もう少し待てば回復するかも」とは言えない——子どもの入学は待ってくれない。

FAQ

学資保険を途中解約して新NISAに切り替えるのはアリ?

契約から数年以内の解約は返戻金が大幅に減るため、損失が出る可能性が高い。すでに5年以上払い込んでいるなら、残りの期間と返戻金を確認したうえで判断しよう。解約返戻金は保険会社に問い合わせれば教えてもらえる。

S&P500以外のインデックス(オルカンなど)でもいい?

eMAXIS Slim全世界株式(オルカン)でも基本的な考え方は同じだ。過去の平均リターンはS&P500よりやや低い(年6〜8%程度)が、米国一国への集中リスクを避けられるメリットがある。分散を重視するならオルカンも有力な選択肢になる。

月15,000円より多く積み立てられる場合はどうする?

新NISAのつみたて投資枠は年間120万円(月10万円)まで。余力があるなら増額して問題ない。ただし教育資金以外の生活防衛資金は別途現金で確保しておくことが前提だ。

18年後にちょうど暴落していたらどうする?

「出口戦略」が重要になる。大学入学の2〜3年前から段階的に売却して現金化しておく方法が一般的だ。18年目に一括売却するのではなく、15〜16年目あたりから少しずつ利益確定すればリスクを分散できる。

児童手当を積立に回すのは現実的?

2024年10月から児童手当は高校生まで月10,000円に拡充された(第3子以降は月30,000円、こども家庭庁 児童手当)。これをそのまま新NISAの積立に回す家庭も増えている。月15,000円のうち10,000円を児童手当で賄えば、家計の実質負担は月5,000円で済む。

参考文献