2026年度税制改正(令和8年度)で、新NISAの非課税保有限度額(簿価ベース)の復活タイミングが「売却の翌年」から「売却した年の中」に前倒しされた。2026年5月時点の情報に基づき、この改正が出口戦略にどう影響するかを整理する。
編集部でもこの改正を見たとき「地味だけど使い方が根本的に変わる」と感じた。ここでは改正前後のルール比較から、具体的な活用パターンまで実例で解説していく。
新NISAの非課税枠「当年復活」とは何が変わったのか
新NISAでは年間投資枠(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=年間360万円)と、生涯非課税保有限度額(簿価残高ベースで1,800万円)の2つの枠がある。
2024年の新NISA開始当初から、保有資産を売却すると「簿価分の非課税枠が復活する」仕組みは存在していた。ただし従来のルールでは、枠が復活するのは売却した翌年だった。
2025年12月に閣議決定された令和8年度(2026年度)税制改正法案により、この復活タイミングが売却した年の中に前倒しされた(金融庁 令和8年度税制改正について)。つまり、1月に売却した枠を12月に再利用できる。
結論から言うと、これは「利益確定→再投資」「損切り→乗り換え」のサイクルを年内で完結できるようになるという意味で、実質的にNISA口座の機動性が大幅に上がる改正だ。
改正前後の枠復活ルールを比較する
改正前後の違いを具体的な数字で整理する。
【改正前(2024〜2025年のルール)】
- 2025年6月に簿価100万円分を売却 → 枠が復活するのは2026年1月以降
- 年内に再投資したい場合、年間投資枠(360万円)の残りを使う必要あり
- 年間枠を使い切っていたら、翌年まで待つしかない
【改正後(2026年〜)】
- 2026年6月に簿価100万円分を売却 → 同年中に非課税枠100万円分が復活
- その復活枠を使って年内に再投資が可能
- ただし年間投資枠(360万円)の上限は変わらない点に注意
要するに、生涯限度額1,800万円の「空き」が即座に使えるようになる。年間投資枠のほうは従来どおり年360万円が上限のため、「枠が復活した=無制限に買える」わけではない。ここは誤解しやすいポイントだ。
当年復活で可能になる3つの活用パターン
編集部で実際にシミュレーションした結果、特にメリットが大きいのは以下の3パターンだった。
パターン1: 損切り→同年中に買い直し
たとえば成長投資枠で個別株を買ったが、業績下方修正で含み損が拡大したケース。改正前は「損切りしたら枠は翌年まで戻らない」ため、年内の買い直しには年間枠の残りを消費する必要があった。
改正後は、売却した簿価分の生涯限度額が年内に復活するので、年間枠に空きがあれば同年中に別の銘柄へ乗り換えられる。損切りの判断がしやすくなる。
ただし注意点として、NISA口座内の損失は他口座(特定口座・一般口座)との損益通算ができない(国税庁 タックスアンサー No.1476)。損切りしても税務上の損失にはならない点は変わらない。
パターン2: 利益確定→年内にリバランス
つみたて投資枠で積み立ててきたファンドが大きく値上がりし、ポートフォリオのバランスが崩れた場合。一部を利確して、年内に別のファンドへ振り替えることが可能になる。
具体例として、オルカン(全世界株式)に偏ったポートフォリオから国内債券ファンドへ一部移す、といったリバランスが年内で完結する。
パターン3: 生活資金の一時引き出し→年内に補填
急な出費でNISA資産を取り崩す必要が出た場合、改正前は翌年まで枠が戻らなかった。改正後は、ボーナスや臨時収入が入ったタイミングで年内に再投資できる。
たとえば4月に簿価50万円を売却して生活費に充て、7月のボーナスで50万円を再投資する。こうしたサイクルが非課税枠を無駄にせず使えるようになる。
注意点とよくある誤解
制度改正に伴い、誤解されやすいポイントを整理する。
年間投資枠(360万円)は変わらない
復活するのは生涯非課税保有限度額(1,800万円)の空き枠であり、年間投資枠が増えるわけではない。年間360万円(つみたて120万円+成長240万円)をすでに使い切っていたら、枠が復活しても年内に再投資はできない。
簿価ベースでの復活である
復活する金額は売却時の時価ではなく、取得時の簿価(買ったときの金額)だ。100万円で買ったものが150万円に値上がりして売却しても、復活するのは100万円分。これは改正前から同じルールだが、改めて押さえておきたい。
NISA口座での損失は損益通算できない
NISA口座で生じた損失は、特定口座や一般口座の利益と損益通算(赤字を他の所得から差し引く制度)ができない。これは新NISA開始時からのルールで、今回の改正で変更されていない。「枠が当年復活するから気軽に損切りできる」と考える前に、損切り分は税務上まったく使えない点を理解しておくべきだ。
適用時期に注意
当年復活ルールの適用は2026年1月以降の売却分から。2025年中に売却した分は従来どおり翌年(2026年)に復活する。遡及適用はされない。
FAQ
Q. 売却したらすぐに枠が復活するのか?
改正法案では「売却した年の中」に復活するとされています。具体的な反映タイミング(即時か、翌月か等)は証券会社のシステム対応によって異なる可能性があります。利用する証券会社の案内を確認してください(2026年5月時点)。
Q. つみたて投資枠と成長投資枠、どちらでも当年復活するのか?
はい。生涯非課税保有限度額1,800万円の枠復活なので、つみたて投資枠・成長投資枠のいずれを売却した場合でも適用されます。ただし再投資時には、それぞれの年間枠上限(つみたて120万円・成長240万円)の制約を受けます。
Q. 年間投資枠360万円を使い切っていても、売却すれば再投資できる?
いいえ。復活するのは生涯限度額1,800万円の空き枠です。年間投資枠360万円をすでに使い切っている場合、年内に追加投資はできません。翌年の年間枠で投資することになります。
Q. 2025年中に売却した分も当年復活の対象になる?
なりません。当年復活ルールは2026年以降の売却に適用されます。2025年中の売却分は従来どおり2026年に枠が復活します。
参考文献
- 金融庁 NISAとは? — 金融庁, 新NISA制度の公式概要ページ
- 国税庁 タックスアンサー No.1476 NISA(少額投資非課税制度) — 国税庁, NISA口座の課税関係
- 財務省 税制改正の概要 — 財務省, 各年度の税制改正大綱・法律案
- 日本証券業協会 NISA(少額投資非課税制度) — 日本証券業協会, NISA制度の解説