新NISAで含み益が膨らんできたのに「まだ上がるかも」「非課税だし放置でいいか」と売れずにいる人が続出している。2024年1月のスタートから約1年半、S&P500やオルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)を積み立ててきた層の中には、含み益が100万円を超えた人も出てきた。
結論から言うと、「利確すべきかどうか」は投資の目的と使う時期で決まる。「株価が上がったから売る」「下がりそうだから売る」という判断は、非課税口座ではほぼ裏目に出る。この記事では、投資目的別(老後資金・住宅購入・教育費)の出口判断フローチャートと、意外と誤解が多い非課税枠の復活ルールを整理した。
編集部でも実際にNISA口座の含み益推移を追いかけているが、「売りたい衝動」と「このまま置いておけばもっと増える期待」の板挟みは全員が通る道だ。数字とルールで整理すれば、判断はシンプルになる。
新NISAの含み益が膨らんだ時に「売れない」3つの心理
Xや投資系コミュニティで「利確できない」という声が続出する背景には、主に3つの心理がある。
1. もっと上がるかもしれない(機会損失への恐怖)
S&P500は2024年に約23%上昇し、2025年に入ってからも堅調に推移している(Google Finance S&P500、2025年5月時点)。「ここで売ったら、その後さらに上がって後悔するのでは」という感情は、行動経済学で「FOMO(Fear of Missing Out)」と呼ばれる典型的なバイアスだ。
2. 非課税だからもったいない
新NISAは運用益が非課税で、しかも非課税期間は無期限。「せっかく非課税なのに売ったらもったいない」と感じるのは自然だが、後述するように売却後に非課税枠は復活する。「一度売ったら枠が消える」は旧NISAの話だ。
3. 売った後どうすればいいかわからない
利確して現金化しても、「その現金をどこに置くか」「また買い直すのか」が決まっていないと動けない。出口戦略がないまま積み立てを始めた人ほど、この壁にぶつかる。
投資目的別・出口判断フローチャート
「売るべきか放置すべきか」は、そもそも何のために投資しているかで答えが変わる。以下のフローチャートで自分の状況を確認してほしい。
【パターンA】老後資金(使うのは20年以上先)
→ 原則:売らない。積立継続が最適解。
老後資金が目的なら、含み益100万円でも500万円でも、途中で利確する合理的な理由はほぼない。金融庁の「つみたてNISA早わかりガイドブック」でも示されている通り、国内外の株式・債券に20年間分散積立した場合の運用成績は年率2〜8%に収束し、元本割れの確率は過去データ上ほぼゼロになる(金融庁 つみたてNISA早わかりガイドブック)。
途中で売って買い直す「タイミング投資」は、プロのファンドマネージャーでも市場平均に勝てないケースが多い。S&P500の過去30年で「上昇率トップ10日」を逃すだけで、リターンは半減するというデータもある(J.P. Morgan Guide to Retirement 2025)。つまり、売って再投資のタイミングを図る行為自体がリスクだ。
例外:生活防衛資金(生活費6ヶ月分)が確保できていない場合は、投資の前にそちらを優先すべき。含み益があるうちに一部売却して生活防衛資金に回すのは合理的な判断だ。
【パターンB】住宅購入(3〜10年以内に使う予定)
→ 目標額に達したら段階的に利確。
住宅購入の頭金など、3〜10年以内に確実に使う資金なら「含み益があるうちに確定させる」判断は正しい。ポイントは一括売却ではなく、段階的に利確すること。
具体的な手順は以下の通り。
- 頭金の目標額を決める(例:500万円)
- 含み益込みの評価額が目標額の110〜120%に達したら、目標額分だけ売却する
- 売却代金は普通預金か個人向け国債(変動10年)に移す
- 残りはそのまま運用を継続
「110〜120%に達したら」としているのは、売却から実際に資金を使うまでの間に市場が下落するリスクへのバッファだ。ギリギリ目標額で売ると、税金はかからないものの(新NISAなので)、為替変動や約定タイミングで想定より少なくなるケースがある。
【パターンC】教育費(子どもの進学時期が決まっている)
→ 使う時期の2〜3年前から段階的に現金化。
大学入学が2030年なら、2027〜2028年頃から段階的に売却を始める。教育費は「いつ・いくら必要か」が比較的明確なので、逆算しやすい。
文部科学省の調査によると、私立大学の4年間の学費は平均約524万円、国公立でも約243万円(文部科学省「私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査」)。全額をNISAで賄う必要はないが、「いくら分を新NISAから取り崩すか」を決めておくと判断が楽になる。
2026年5月現在、新NISAの非課税枠復活ルール(後述)により、教育費として売却した分の枠は翌年に戻る。「枠を使い切ってしまう」心配は不要だ。
【パターンD】特に目的がない/なんとなく増やしたい
→ 売らない。ただし、投資目的を決めることが先。
「とりあえず積み立ててる」という人は、まず投資の目的を明確にすることが最優先だ。目的が決まれば、上のA〜Cのどれかに当てはまる。目的がないまま利確しても、また同じ悩みを繰り返すだけだ。
新NISAの非課税枠「復活ルール」を正しく理解する
新NISAの利確判断で最も誤解が多いのが、非課税枠の復活ルールだ。2026年5月時点の制度をもとに整理する。
基本の仕組み
新NISAの非課税保有限度額(生涯投資枠)は1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)。この枠は「簿価(取得価額)ベース」で管理される(金融庁 新しいNISA)。
年間投資枠は、つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=合計360万円/年。これは毎年リセットされる。
売却したら枠はどうなる?
新NISAで保有商品を売却すると、その商品の「取得価額」分の非課税枠が翌年に復活する。ここが旧NISAとの最大の違いだ。
具体例:
- 取得価額100万円で買ったオルカンが、含み益込みで150万円になった
- 150万円で全額売却 → 手元に150万円(非課税なので丸ごと受け取れる)
- 翌年、生涯投資枠に100万円分(取得価額ベース)が復活
- 復活した枠で再投資が可能
注意点:
- 枠が復活するのは翌年。売却した年には復活しない
- 復活するのは「取得価額」であって「売却額」ではない。含み益50万円分の枠が増えるわけではない
- 年間投資枠(360万円/年)の上限は変わらない。枠が復活しても、年360万円を超えて投資はできない
「枠がもったいないから売れない」は誤解
旧NISA(一般NISA・つみたてNISA)では売却した枠は二度と使えなかった。この記憶が残っている人ほど「売ったら枠が消える」と思い込みがちだが、新NISAでは枠は復活する。
ただし、翌年復活+年間360万円上限があるため、「売って即全額買い直し」はできない設計になっている。頻繁な売買(短期トレード)には向かない仕組みであり、金融庁も長期投資を前提とした制度設計であることを明示している。
「利確しない」と決めた人がやるべき3つのこと
フローチャートで「売らない」と判断した人も、放置でいいわけではない。以下の3つは定期的に確認しておこう。
1. リスク許容度の再確認
含み益100万円は嬉しいが、逆に含み損100万円になっても平気でいられるか。S&P500は過去に最大で約50%の下落(2008年リーマンショック時)を経験している。評価額が半分になっても積立を続けられるかどうか、今のうちに自問しておくべきだ。
もし「100万円の含み損には耐えられない」と感じるなら、投資額が自分のリスク許容度を超えている可能性がある。その場合は一部利確して、債券やバランスファンドに振り分けるのも選択肢だ。
2. 生活防衛資金の確認
生活費の6ヶ月分(会社員の場合。フリーランスなら12ヶ月分が目安)が預貯金で確保できているか。これが足りていないなら、含み益がある今のうちに一部を現金化しておく方が安全だ。投資は「余剰資金で行うもの」という原則は、NISAでも変わらない。
3. ポートフォリオの偏りチェック
新NISAでS&P500とオルカンの両方を積み立てている人は多いが、オルカンの約6割は米国株だ(三菱UFJアセットマネジメント eMAXIS Slim 全世界株式 目論見書、2025年4月時点)。S&P500と合わせると、ポートフォリオの80〜90%が米国株に偏っているケースも珍しくない。
米国株の比率が高すぎると感じるなら、新規の積立先を国内株式や債券ファンドに振り分けることでリバランスできる。わざわざ売却してリバランスする必要はなく、新規資金の配分を変えるだけで十分だ。
利確する場合の実務手順と注意点
フローチャートで「利確する」と判断した人向けに、実際の手順と注意点をまとめる。
売却の手順(主要ネット証券共通)
- 証券口座にログイン → NISA口座の保有商品一覧を開く
- 売却したい商品を選択 → 「売却」ボタンをクリック
- 売却数量(口数)または金額を指定
- 注文内容を確認して発注
- 投資信託の場合、約定は翌営業日以降。受渡は約定日から2〜3営業日後
売却時の注意点
税金はかからない:新NISA口座内の売却益は非課税。確定申告も不要だ。ただし、特定口座や一般口座で同じ銘柄を保有している場合、売却する口座を間違えないよう注意。
売却代金の受け取り:投資信託の場合、売却注文から入金まで4〜7営業日かかるのが一般的。住宅購入の手付金など、期日が決まっている支払いに充てる場合は余裕を持って手続きすること。
一部売却と全部売却:口数指定で一部だけ売却できる。「含み益の半分だけ確定させたい」場合は、保有口数の一部を指定して売却すればよい。
FAQ
新NISAで利確したら税金はかかりますか?
かかりません。新NISA口座内の売却益・分配金はすべて非課税です。確定申告も不要です。ただし、NISA口座以外(特定口座など)で売却した場合は約20.315%の税金がかかります。
含み益が出ているうちに売った方がいいですか?
投資目的によります。老後資金(20年以上先)なら売らずに積立継続が合理的です。3〜10年以内に使う資金なら、目標額に達した時点で段階的に利確するのが安全です。
売却した非課税枠はいつ復活しますか?
翌年に復活します。復活するのは「取得価額(簿価)」ベースの金額です。たとえば取得価額100万円の商品を150万円で売っても、復活する枠は100万円分です。年間投資枠360万円の上限は変わりません。
S&P500とオルカン、どちらを先に売るべきですか?
ポートフォリオ全体の米国株比率で判断します。オルカンの約6割は米国株なので、S&P500と合わせて米国株比率が高すぎるならS&P500側から利確するのが一案です。ただし、どちらか一方に大きな含み益がある場合は、利益の大きい方から売ると枠の復活額も大きくなります。
利確した後、同じ商品を買い直してもいいですか?
制度上は問題ありません。ただし、年間投資枠(360万円/年)の範囲内でしか再投資できません。売却した年に枠が余っていれば同年中に買い直すことも可能ですが、短期売買を繰り返す使い方は新NISAの制度趣旨に合わないため、長期目線での判断を推奨します。
参考文献
- 金融庁「新しいNISA」 — 制度概要・非課税枠の仕組み
- 金融庁「つみたてNISA早わかりガイドブック」 — 長期積立分散投資の運用成績データ
- 文部科学省「私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査」 — 大学学費データ
- 三菱UFJアセットマネジメント eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) — ファンド目論見書・国別比率
- J.P. Morgan Guide to Retirement 2025 — 長期投資とマーケットタイミングのデータ