新NISAのつみたて投資枠で「S&P500一本」か「オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)一本」か。投資初心者が最初にぶつかる壁がこの二択だ。

結論から言うと、どちらを選んでも大きな失敗にはなりにくい。ただし「なぜその1本を選んだか」を自分の言葉で説明できないと、暴落局面で狼狽売りしやすい。この記事では過去20年のリターン・為替リスク・地域分散効果を実数字で比較し、年齢やリスク許容度に応じた判断フレームワークを整理した。

編集部でも実際に両方のファンドを積み立てて比較しているが、途中経過を見るたびに「どっちでもいいから続けることが最強」と実感する。とはいえ納得感がないと続かないので、一緒にデータを見ていこう。

S&P500とオルカン、中身の違いを30秒で理解する

まず基本を押さえておこう。

S&P500は、米国の大型株500社で構成される株価指数だ。Apple、Microsoft、Amazon、NVIDIAなど、世界を動かすテック企業が上位を占める。代表的な投資信託は「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」で、信託報酬は年0.09372%(2025年1月時点、三菱UFJアセットマネジメント公式)。

オルカン(全世界株式)は、先進国23カ国+新興国24カ国、約2,800銘柄に分散投資する。代表的なファンドは「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」で、信託報酬は年0.05775%(同時点、三菱UFJアセットマネジメント公式)。

ここで見落としがちなポイントがある。オルカンの国別構成比で米国株は約63%を占めている(2025年6月時点、MSCI ACWI Index Fact Sheet)。つまり「オルカンを買う=米国株6割+その他4割」であり、完全に別モノというわけではない。

過去20年のリターン比較|S&P500が勝った理由と注意点

2005年〜2025年の20年間で、円建てのトータルリターン(配当再投資)を比較すると、S&P500が年率平均で約12〜13%、MSCI ACWI(オルカンのベンチマーク)が約10〜11%と、S&P500が上回ってきた(MSCI End of Day Data、円換算は日銀公表レート基準)。

この差は主に2010年代の米国テック株の爆発的成長によるものだ。GAFAMの時価総額が急拡大し、S&P500の上位10銘柄だけで指数全体の30%以上を占める「集中リスク」が生まれた。

ただし20年を10年ずつ区切ると景色が変わる。2005年〜2015年のリターンでは新興国株が好調で、全世界株の方がS&P500に肉薄した時期もあった。「過去20年S&P500が勝ったから今後も勝つ」とは言い切れない。

資産運用の世界では「平均への回帰(Mean Reversion)」という考え方がある。一定期間突出したリターンを出した資産クラスは、その後パフォーマンスが落ち着く傾向がある。米国株が今後も圧倒的に勝ち続ける保証はどこにもない。

為替リスク|円安・円高で成績はどう変わるか

S&P500もオルカンも、為替ヘッジなしのファンドが主流だ。つまり「為替リスクはどちらを選んでも取っている」。

違いは通貨の分散度合いだ。S&P500は100%米ドル建て資産に投資する。一方オルカンは米ドル約63%、ユーロ約8%、円約5%、英ポンド約4%、その他約20%と、複数通貨に分散されている(MSCI ACWI構成比、2025年6月時点)。

具体例で見てみよう。2022年10月に1ドル=151円台をつけた円安局面では、S&P500の円建てリターンは為替効果で大きく底上げされた。逆に2023年1月に1ドル=127円台まで円高に振れた局面では、S&P500の方がオルカンより大きく下落した。

つまりS&P500は円安で大きく得をし、円高で大きく損をする。オルカンは通貨分散により、為替変動の振れ幅がやや小さくなる傾向がある。

2026年7月現在、ドル円は依然として円安基調が続いているが、日銀の金融政策正常化や米国の利下げ局面次第で、円高に転じる可能性は常にある。為替の先行きは専門家でも予測が難しいため、「為替リスクをどの程度許容できるか」が判断基準の一つになる。

地域分散の効果|「米国一強」はいつまで続くのか

「どうせオルカンも6割が米国株なら、S&P500で良くない?」という意見はもっともだ。しかし地域分散には「保険」としての価値がある。

歴史を振り返ると、1990年代は日本株が世界の時価総額の約40%を占め「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた。その後バブル崩壊で日本株の比率は6%台まで下落した(World Federation of Exchanges 統計)。同様のことが米国に起きないという保証はない。

オルカンの場合、ある国の株式市場が低迷すると、時価総額加重により自動的にその国の比率が下がり、好調な国の比率が上がる。つまり「勝ち馬に乗り換える」メカニズムが組み込まれている。

2020年代に入り、インド株式市場が急成長している。MSCI ACWIにおけるインドの構成比は2020年の約1.5%から2025年には約2.3%まで上昇した(MSCI ACWI Fact Sheet)。オルカンならこうした新興国の成長を自動的に取り込める。S&P500だけでは、この恩恵は得られない。

年齢・リスク許容度別の判断フレームワーク

結局どっちを選べばいいのか。以下のフレームワークで自分に合う方を判断しよう。

S&P500が向いている人

  • 20〜30代で投資期間が30年以上ある:長期なら短期の下落を吸収できる。米国経済の構造的優位(人口増加・イノベーション・法整備)に賭ける時間がある
  • 「米国が世界経済の中心であり続ける」と確信している:確信があれば、暴落時にも売らずに持ち続けられる
  • リターンを最大化したい:過去実績ではS&P500が上回ってきた。今後も米国優位が続くなら、こちらが有利

オルカンが向いている人

  • 投資初心者で「何を選んでいいかわからない」:全世界に分散されているため、どの国が伸びても恩恵を受けられる。「わからないなら全部買う」は合理的な戦略だ
  • 40代以降で投資期間が15〜20年:リカバリーの時間が限られるため、一国集中リスクを避けたい
  • 「自分は暴落で売ってしまいそう」と思う:分散効果で下落幅がやや緩和されるため、精神的に持ちやすい
  • 為替リスクを分散したい:ドル100%よりも複数通貨に分散したい場合

迷ったらオルカンが「無難な正解」

どうしても決められないなら、オルカンを選んでおけば大きな失敗は避けられる。理由は3つ。

  1. オルカンの6割は米国株なので、米国の成長もある程度取り込める
  2. 米国以外の国が伸びた場合のアップサイドも拾える
  3. 信託報酬はオルカンの方が低い(0.05775% vs 0.09372%)

逆に「S&P500を選んで大失敗する」シナリオは「米国経済が長期低迷し、他の国が台頭する」場合だが、これは今のところ可能性としては低い。どちらを選んでも、月々の積立を20年以上続けることの方が、銘柄選びよりはるかに重要だ。

「両方買う」はあり?

S&P500とオルカンを半々で積み立てる人もいるが、実質的には「米国比率を80%前後にする」ポートフォリオになる。悪い選択ではないが、管理が煩雑になるだけで分散効果はオルカン単体とあまり変わらない。シンプルに1本に絞る方が長続きしやすい。

新NISAの制度を活かす積立戦略

2024年1月に始まった新NISAでは、つみたて投資枠(年120万円)と成長投資枠(年240万円)を合わせて年間360万円、生涯で1,800万円まで非課税で投資できる(金融庁 新NISA特設サイト)。

つみたて投資枠ではeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)もeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)も対象商品に含まれている。

月3万円を20年間、年利5%で積み立てた場合のシミュレーション:

  • 元本:720万円
  • 運用益:約513万円
  • 合計:約1,233万円

これが旧NISA(20年非課税)と同等のペースだが、新NISAでは非課税期間が無期限のため、さらに長期の運用で複利効果が加速する。仮に30年続ければ、同じ月3万円・年利5%で合計約2,497万円(元本1,080万円+運用益約1,417万円)になる(金融庁つみたてシミュレーターで試算可能)。

大事なのは「S&P500かオルカンか」よりも「毎月いくらを何年続けるか」だ。銘柄選びで悩む時間があるなら、1日でも早く積立を始める方が合理的である。

FAQ

S&P500とオルカンを両方買うのは意味がない?

意味がないわけではないが、オルカンの約63%が米国株のため、両方買うと米国比率が80%前後になる。明確に「米国比率を高めたい」意図がなければ、どちらか1本に絞る方がシンプルで管理しやすい。

新NISAでS&P500を選んだら途中でオルカンに変えられる?

新NISAでは保有中の商品を別の商品に直接スイッチングする機能はない。変更したい場合は既存の積立設定を停止し、新たにオルカンの積立を開始する。すでに買ったS&P500はそのまま非課税で保有し続けられる。売却すれば翌年以降に非課税枠が復活する(金融庁 新NISA制度概要)。

円高になったらS&P500は大損する?

為替が円高に振れると円建てのリターンは目減りするが、「大損」とは限らない。例えば株価が年10%上昇し、為替が5%円高に動けば、円建てリターンは約5%になる。株価上昇と為替の両方を見る必要がある。長期積立なら、円高局面ではドル建て資産を安く買えるメリットもある。

eMAXIS Slim以外のファンドでもいい?

同じ指数(S&P500やMSCI ACWI)に連動するファンドなら、基本的にリターンは同程度になる。選ぶ際は信託報酬の低さ・純資産総額の大きさ・トラッキングエラーの小ささを比較するとよい。SBI・V・S&P500やたわらノーロード全世界株式なども有力な選択肢だ。

暴落が来たら積立を止めるべき?

止めるべきではない。暴落局面こそ「安く買える」チャンスであり、積立投資の最大のメリットはこのドルコスト平均法の効果だ。リーマンショック(2008年)で積立を止めずに続けた人は、その後の回復で大きな含み益を得ている。感情に流されず、淡々と続けることが最も重要だ。

参考文献