新NISAで買った銘柄が値下がりし、含み損を抱えたまま放置していないだろうか。特定口座なら損益通算で税負担を減らせるが、NISA口座ではその手段が使えない。だからこそ「売って翌年の非課税枠で買い直す」という判断が選択肢に入る。

この記事では、2024年にスタートした新NISA制度の枠再利用ルールを踏まえ、含み損銘柄を損切りすべきかどうかの判断基準を3つに整理した。結論から言うと、すべての含み損が損切り対象ではなく、「その銘柄に再投資したいか」が最大の分岐点になる。

新NISAで含み損が出たら「損切り」は必要なのか

そもそも新NISA口座で含み損が出ること自体は珍しくない。2024年1月〜2025年12月の間だけでも、日経平均は約4万2,000円の高値から約3万1,000円台まで下落する局面があった(日本取引所グループ 相場情報)。米国株でもS&P500は2024年後半から2025年前半にかけて調整局面を経験している。

特定口座であれば、含み損のある銘柄を売却して実現損を出し、他の利益と損益通算(赤字を他の所得から差し引く制度)をして税負担を軽減できる。しかしNISA口座で発生した損失は、税制上「なかったもの」として扱われる。つまり、NISA口座の損失は特定口座や一般口座の利益と通算できない。

編集部でも2024年に成長投資枠で購入した個別株が一時30%以上の含み損を抱えた経験がある。このとき痛感したのは、「損切りしないことが正解とは限らないが、慌てて売ることも正解ではない」ということだった。

非課税枠の再利用ルール|売却した翌年に枠が復活する仕組み

新NISAの大きな特徴は、売却した分の非課税枠が翌年に復活する点にある。これは旧NISA(一般NISA・つみたてNISA)にはなかった制度だ。

具体的なルールは以下のとおりだ(2024年1月の制度開始時点。金融庁 新しいNISA参照)。

  • 年間投資上限: つみたて投資枠120万円 + 成長投資枠240万円 = 年間360万円
  • 生涯投資枠(簿価残高方式): 1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)
  • 枠の復活: 売却した場合、その銘柄の「取得価額(簿価)」分が翌年に生涯投資枠へ復活する
  • 年間枠は復活しない: 年間360万円の上限を使い切った場合、同年中の売却で追加投資はできない

つまり、含み損のある銘柄を100万円(簿価)で購入し、70万円で売却した場合、翌年に復活するのは簿価の100万円分であり、売却額の70万円ではない。ここが損切り→買い直し戦略のポイントになる。

損切り判断の3つの基準

含み損を抱えたNISA銘柄を損切りすべきかどうか、以下の3つの基準で判断することを提案する。

基準1: その銘柄に再投資したいか

最も重要な問いは「今、手元にその資金があったら、同じ銘柄を買うか」だ。答えがNOなら、損切りして翌年の枠で別の銘柄に乗り換える合理性がある。

例えば、業績悪化で長期的な成長シナリオが崩れた個別株を持ち続ける理由はない。一方、インデックスファンド(オルカンやS&P500連動型)の一時的な下落であれば、長期的に回復が見込めるため、持ち続ける判断も合理的だ。

基準2: 含み損の割合と回復までの期間

含み損が10%程度なら、インデックス投資の場合は数ヶ月〜1年で回復する可能性が十分にある。過去のデータでは、S&P500の10%以上の調整は平均して約4ヶ月で回復している(S&P Dow Jones Indices公表データに基づく)。

一方、含み損が30%を超えている場合、回復には相当な時間がかかる可能性がある。30%の下落から元値に戻るには約43%の上昇が必要だ。この期間に非課税枠が「死に金」として拘束されるコストを考慮すべきだ。

基準3: 生涯投資枠の残り余裕

生涯投資枠1,800万円に対してまだ余裕がある場合、含み損銘柄を売却せずに追加投資で平均取得単価を下げる(ナンピン)戦略も取れる。

逆に、枠をほぼ使い切っている場合は、含み損銘柄を売却して枠を翌年に復活させ、より将来性のある銘柄に振り替える意味が大きくなる。

特定口座との損益通算ができない|NISA最大の注意点

新NISAで損切りする際に最も注意すべきなのが、NISA口座内の損失は他の口座の利益と損益通算できない点だ。これは国税庁が明確に定めている(国税庁 タックスアンサー No.1476)。

具体的にどういうことか。例を挙げる。

  • 特定口座で50万円の利益が出ている
  • NISA口座で30万円の損失が出ている
  • 特定口座の利益50万円に対して約10万円の税金(所得税+住民税 約20.315%)がかかる
  • NISA口座の30万円の損失では、この税金を1円も減らせない

もしこの30万円の損失が特定口座で発生していれば、利益50万円 − 損失30万円 = 20万円に対する課税で済み、約4万円の税金で済んだはずだ。差額の約6万円は、NISAの非課税メリットが「逆に働いた」コストと言える。

さらに、確定申告の繰越控除(3年間)もNISA口座の損失には適用されない。特定口座であれば損失を最大3年間繰り越して翌年以降の利益と相殺できるが、NISA口座ではこの制度も使えない。

損切り→買い直しの具体的シミュレーション

実際の数字で見てみよう。以下のケースを想定する。

前提条件:

  • 2024年にNISA成長投資枠で銘柄Aを100万円(簿価)で購入
  • 2026年7月時点で評価額70万円(含み損30万円、下落率30%)
  • 銘柄Aの業績悪化により、今後の回復見通しは不透明

パターンA: 損切りして翌年に別銘柄で買い直し

  • 2026年中に銘柄Aを70万円で売却(損失30万円は税制上「なかったこと」)
  • 2027年に簿価100万円分の枠が復活
  • 2027年に復活した枠で銘柄Bを100万円分購入
  • 銘柄Bが年10%上昇した場合 → 1年後の評価額110万円、利益10万円は非課税

パターンB: 損切りせず銘柄Aを保有し続ける

  • 銘柄Aが元値の100万円に戻るには約43%の上昇が必要
  • 回復に2〜3年かかった場合、その間の非課税枠100万円分は有効活用できない
  • 回復しなかった場合、含み損はさらに拡大するリスクもある

要するに、「その銘柄の回復を信じられるか」と「枠を別の投資機会に使いたいか」のトレードオフだ。業績悪化の個別株ならパターンAが合理的で、インデックスファンドの一時的な下落ならパターンBで問題ないケースが多い。

FAQ

新NISAで損切りしたら、翌年すぐに同じ銘柄を買い直せますか?

買い直せる。売却した簿価分の枠が翌年に復活するため、同じ銘柄でも別の銘柄でも自由に再投資できる。ただし年間投資上限(360万円)の範囲内に限られる。

つみたて投資枠の含み損も損切りすべきですか?

つみたて投資枠の対象は長期積立向けのインデックスファンドが中心なので、一時的な下落で損切りするメリットは小さい。ドルコスト平均法で平均取得単価を下げる方が合理的なケースが多い。

NISA口座の損失を確定申告で使う方法はありますか?

ない。NISA口座の損失は税法上「ないもの」として扱われるため、確定申告で損益通算や繰越控除に利用することは一切できない(国税庁 タックスアンサー No.1476)。

含み損が出ているインデックスファンドはどうすればいい?

オルカンやS&P500連動型などのインデックスファンドは、過去の実績では長期保有で回復する可能性が高い。10年以上のスパンで投資しているなら、一時的な含み損で慌てて売却する必要はない。

参考文献