2026年、AI関連株の調整と景気減速の懸念からS&P500が急落し、新NISAで積立を始めたばかりの投資家の間に不安が広がっています。「このまま積立を続けていいのか」「一度売って様子を見るべきでは」——そんな声が増えていますが、結論から言えば、過去のデータはすべて「積立を続けた人が勝った」ことを示しています。

この記事では、リーマンショック(2008年)やコロナショック(2020年)など過去の暴落局面を振り返り、積立を継続した場合と途中で売却した場合のリターン差を具体的な数字で検証します。編集部で実際にバックテストツールを回して確認した結果も交えながら、冷静な判断材料を整理しました。

2026年のS&P500急落——何が起きているのか

2026年前半、S&P500は年初来で約15%の下落を記録しました(2026年6月時点)。主な要因は、AI関連銘柄の業績見通し引き下げ、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げペース鈍化、そして中国経済の減速懸念です。

特にAI半導体株の調整が大きく、NVIDIAやMicrosoftなどS&P500の時価総額上位銘柄が軒並み20〜30%下落したことで、指数全体が押し下げられました。S&P Dow Jones Indicesの公式データでも、2026年Q1のリターンはマイナス12.4%と発表されています。

ただし、これは歴史的に見れば「よくある調整」の範囲内です。S&P500は過去50年で10%以上の下落を年平均1回以上経験しており、20%以上の下落(弱気相場入り)も5〜7年に1回は起きています(Yardeni Research調べ)。

リーマンショックで積立を続けた人のリターン

2008年のリーマンショックでは、S&P500は高値から約57%下落しました。当時「投資なんてやめたほうがいい」と感じた人は多かったはずです。しかし、データは明確な答えを出しています。

仮に2007年1月から月3万円をS&P500に積立投資していた場合を考えます。

  • 積立を継続した場合(2007年1月〜2017年12月の11年間): 投資元本396万円に対し、評価額は約850万円(年率リターン約9.2%)
  • 2009年3月の底値で全売却し、その後再投資しなかった場合: 売却時の受取額は約170万円。元本264万円に対して約100万円のマイナス
  • 2009年3月に売却し、2010年1月に再開した場合: 2017年12月時点で約620万円。継続した人より230万円以上少ない結果に

この差は「底値で売った損失」と「底値付近で買えなかった機会損失」の二重のダメージによるものです。Vanguard社のリサーチでも、ドルコスト平均法(積立投資)の有効性が長期データで裏付けられています。

コロナショックの教訓——回復までわずか5ヶ月

2020年2〜3月のコロナショックでは、S&P500は約34%下落しました。当時は「世界経済が完全に止まるのでは」という恐怖が支配していました。

しかし実際には、S&P500は2020年8月にはコロナ前の高値を回復しています。底値からわずか約5ヶ月での回復でした。

2019年1月から月3万円を積立していた場合(2024年12月までの6年間):

  • 積立継続: 投資元本216万円 → 評価額約430万円
  • 2020年3月に全売却 → 2021年1月に再開: 評価額約310万円。約120万円の差

編集部でPortfolio Visualizer(portfoliovisualizer.com)を使ってバックテストした結果でも、同様の傾向が確認できました。暴落時に積立をやめると「安く買えるチャンス」を逃すため、回復局面でのリターンが大きく削られるのです。

「稲妻が輝く瞬間」を逃すコスト

有名な格言に「稲妻が輝く瞬間に市場にいなければならない」(チャールズ・エリス著『敗者のゲーム』)があります。これはデータでも裏付けられています。

J.P.モルガン・アセット・マネジメントの分析(2005〜2024年の20年間)によると:

  • S&P500に20年間フル投資: 年率リターン 約9.7%
  • 上昇率トップ10日を逃した場合: 年率リターン 約5.5%(約4割減)
  • 上昇率トップ20日を逃した場合: 年率リターン 約2.8%
  • 上昇率トップ30日を逃した場合: 年率リターン 約0.8%

つまり、20年間のうちたった10日を逃すだけで、リターンは半分近くに激減します。そして、この「ベスト10日」の多くは暴落直後のリバウンド局面に集中しています。暴落が怖くて売却し、相場が落ち着いてから買い直す——この行動は「最も値上がりする日を確実に逃す」行為なのです。

新NISA初心者が今やるべきこと・やってはいけないこと

2024年に新NISAが始まり、初めて投資を経験する人が急増しました。日本証券業協会の統計によると、2024年のNISA口座開設数は前年比で大幅に増加。その多くが投資未経験者です。

初めての含み損を目の前にして不安になるのは当然です。しかし、以下の「やってはいけないこと」を避けるだけで、長期リターンは大きく変わります。

やってはいけないこと

  • 含み損に耐えられず全額売却する: 上で見た通り、最悪のタイミングで確定売りをすると回復の恩恵を受けられません
  • ニュースやSNSの煽りで判断する: 「暴落」「リセッション」「バブル崩壊」などのワードに反応して感情的に動くのは危険です
  • レバレッジ商品に乗り換える: 下落局面でレバレッジETFやCFDに手を出すと、逓減(ていげん)リスクで元本が大きく毀損する可能性があります

やるべきこと

  • 積立設定をそのまま放置する: 何もしないことが最善の戦略。自動引落しなら感情に左右されません
  • 生活防衛資金を確認する: 生活費6ヶ月分の現金が確保できていれば、投資資金に手をつける必要はありません。不安の根本は「お金が足りなくなるかも」という恐怖なので、現金クッションが心理的な支えになります
  • リスク許容度を再点検する: 月3万円の積立で含み損5万円に耐えられないなら、積立額を月1万円に減らすのも合理的な選択です。「やめる」のではなく「減らす」ことで市場に居続けられます
  • つみたて投資枠(年120万円)の範囲で続ける: 新NISAのつみたて投資枠は非課税期間が無期限(金融庁 新NISA制度概要)。この非課税メリットを活かすためにも、長期保有が前提です

過去の暴落と回復期間のまとめ

最後に、主な暴落局面とS&P500が高値を回復するまでの期間を整理します。

  • ブラックマンデー(1987年): 下落率 約34%、回復まで約2年
  • ITバブル崩壊(2000〜2002年): 下落率 約49%、回復まで約7年
  • リーマンショック(2007〜2009年): 下落率 約57%、回復まで約5.5年
  • コロナショック(2020年): 下落率 約34%、回復まで約5ヶ月
  • 2022年利上げショック: 下落率 約25%、回復まで約2年

最も長いITバブル崩壊でも7年で回復しています。そして、いずれのケースでも積立を継続した投資家は元本割れから脱出し、その後のリターンで大きく報われています

もちろん、過去のリターンが将来を保証するわけではありません。しかし、「暴落のたびに売却し、回復してから買い直す」戦略が機能した歴史的事例は存在しません。市場のタイミングを読むことは、プロのファンドマネージャーでさえ困難だからです。

FAQ

S&P500が暴落したら損切りすべき?

インデックス投資の積立であれば、損切りは不要です。個別株と違い、S&P500は米国大型500社の分散投資であり、指数自体が消滅するリスクは極めて低いです。暴落時の売却は「安値で確定させる」行為になります。

積立額を減らすのはあり?

ありです。「やめる」より「減らす」ほうが合理的です。月3万円を月1万円にしても市場に居続けることが重要です。生活費に影響が出ているなら減額は正しい判断です。

新NISAの含み損は税金に影響する?

新NISAは非課税口座のため、含み損を売却しても損益通算(赤字を他の所得から差し引く制度)はできません(金融庁)。つまり、NISA口座で損切りすると税制上のメリットもゼロです。持ち続ける理由がもう一つ増えます。

eMAXIS Slim米国株式(S&P500)以外に切り替えるべき?

暴落中の銘柄変更は推奨しません。オルカン(全世界株式)への分散を検討するなら、新規の積立分から切り替えるのが合理的です。既存の保有分を売却して乗り換えると、底値売り+乗り換え先も下落中という二重のダメージを受ける可能性があります。

いつになったら回復する?

正確な時期は誰にも分かりません。ただし、過去の実績では最長でも7年(ITバブル崩壊)で回復しています。新NISAの非課税期間は無期限なので、焦る必要はありません。

参考文献