2026年12月、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金上限が大幅に引き上げられる。会社員・公務員の上限は月2万円から最大月6.2万円へ拡大し、加入可能年齢も70歳未満に延長される。2024年に成立したDC法等改正法に基づく施行だ。
自分も副業収入の節税でiDeCoを使ってきたが、正直これまでの月2万円枠では物足りなかった。今回の改正は「もっと積みたい」と思っていた会社員にとって、かなり大きな変化になる。ただし、改正日に慌てないためには今から準備が必要だ。
この記事では、2026年5月時点で判明している改正内容を整理し、施行前に会社員がやるべき3つの準備を時系列で解説する。
2026年12月施行|iDeCo改正の全体像
2024年に成立した「確定拠出年金法等の一部を改正する法律」により、iDeCoに関する主な変更点は以下の3つだ。
1. 掛金上限の引き上げ(企業年金加入者)
企業型DC(企業型確定拠出年金)やDB(確定給付企業年金)に加入している会社員のiDeCo掛金上限が、月額2万円から月額6.2万円に拡大される。ただし、これは企業型DCの事業主掛金やDB掛金相当額との合算枠であり、「6.2万円まるまる自分で積める」わけではない点に注意が必要だ。
つまり、企業型DCで事業主が月2万円拠出している場合、iDeCoに積めるのは6.2万円 − 2万円 = 月4.2万円となる。
2. 企業年金なしの会社員・公務員
企業型DC・DBのいずれにも加入していない会社員(いわゆる第2号被保険者)の上限は、現行の月2.3万円から月6.2万円に引き上げられる。自営業者(第1号被保険者)の上限月6.8万円に近い水準となり、制度間の格差が大幅に縮まる。
3. 加入可能年齢の引き上げ
現行では65歳未満までとなっている加入可能年齢が、70歳未満に引き上げられる。厚生年金被保険者であれば70歳まで掛金を拠出でき、運用期間を最大5年間延長できる(厚生労働省「確定拠出年金制度」)。
改正前と改正後の掛金上限を比較
改正の影響度を把握するため、加入者の種別ごとに改正前後の上限を一覧にした。
| 加入者の種別 | 改正前(2026年11月まで) | 改正後(2026年12月〜) |
|---|---|---|
| 自営業者(第1号) | 月6.8万円 | 月6.8万円(変更なし) |
| 会社員(企業年金なし) | 月2.3万円 | 月6.2万円 |
| 会社員(企業型DCあり) | 月2.0万円※ | 月6.2万円(事業主掛金との合算) |
| 会社員(DBあり) | 月1.2万円 | 月6.2万円(DB掛金相当額との合算) |
| 公務員 | 月1.2万円 | 月6.2万円(共済掛金との合算) |
| 専業主婦・主夫(第3号) | 月2.3万円 | 月2.3万円(変更なし) |
※企業型DC加入者のiDeCo併用は2022年10月から全面解禁されたが、上限が月2万円と低かった。今回の改正で実用的な水準になる。
結論から言うと、最も恩恵が大きいのは公務員とDB加入の会社員だ。月1.2万円 → 月6.2万円(合算枠)と、枠が5倍以上になる。
準備①|企業型DCとの併用設定を勤務先に確認する(2026年6〜9月)
まず最初にやるべきは、自分の勤務先の企業年金制度を正確に把握することだ。
編集部でも実際に問い合わせてみたが、人事・総務に「うちの企業型DCの事業主掛金はいくらですか」と聞くだけで答えが返ってくる会社もあれば、「確定拠出年金の運営管理機関に聞いてください」と言われるケースもあった。
確認すべきポイントは以下の3つだ。
(1)自分が加入している企業年金の種類
企業型DC、DB(確定給付企業年金)、厚生年金基金のいずれか(または複数)を確認する。給与明細の控除欄や、入社時の年金資料で確認できることが多い。
(2)事業主掛金の月額
企業型DCの場合、事業主が拠出している掛金額を把握する。この金額がiDeCoの上限を決めるカギになる。たとえば事業主掛金が月3万円なら、iDeCoに追加できるのは6.2万円 − 3万円 = 月3.2万円だ。
(3)マッチング拠出の有無
企業型DCでマッチング拠出(従業員が上乗せ拠出する制度)を利用中の場合、iDeCoとの併用はできない。どちらが有利かは事業主掛金の額や手数料で変わるため、改正前に比較しておくとよい(iDeCo公式サイト)。
準備②|掛金配分と商品選びを見直す(2026年9〜11月)
上限枠が広がるということは、毎月の拠出額が増える。増額分をどの運用商品に配分するかを事前に決めておくと、施行日にスムーズに変更できる。
配分見直しのポイント
iDeCoは60歳まで原則引き出せない「ロック資金」だ。この性質を踏まえると、長期運用に向いたインデックスファンドとの相性がよい。
- 全世界株式(オルカン)型: eMAXIS Slim全世界株式などが代表的。1本で国際分散ができる
- 先進国株式型: 米国・欧州中心のインデックスファンド
- バランス型: 株式と債券を自動配分。リスクを抑えたい人向け
なお、iDeCoの運用商品は金融機関(運営管理機関)ごとに異なる。現在の金融機関のラインナップに不満がある場合、改正前に金融機関の変更(移換)を検討するのも手だ。ただし移換には1〜2ヶ月かかり、その間は運用が停止する点に注意が必要だ(国民年金基金連合会「iDeCo」)。
節税効果の試算
iDeCoの最大のメリットは掛金が全額所得控除になる点だ。年収500万円(所得税率20%・住民税10%)の会社員が、月2万円から月5万円に増額した場合の年間節税額を試算してみよう。
- 月2万円 × 12ヶ月 × 30% = 年間7.2万円の節税
- 月5万円 × 12ヶ月 × 30% = 年間18万円の節税
- 差額: 年間+10.8万円の節税効果
※所得税率は課税所得による。住民税10%と合算した概算値。実際の節税額は個人の所得状況により異なる。
準備③|受取戦略を60歳前に設計しておく(2026年中)
iDeCoの受取方法は「一時金」「年金」「併用」の3パターンがあり、税制上の扱いがまったく異なる。掛金を増やすほど将来の受取額も大きくなるため、出口の設計がより重要になる。
一時金受取の場合
退職所得控除が適用される。勤続年数(= 加入年数)が長いほど控除額が大きく、税負担が軽い。ただし、企業型DCの一時金や退職金と受取時期が重なると、控除枠を食い合う可能性がある。
2024年時点の税制では、退職金とiDeCo一時金の受取間隔が19年以内の場合、退職所得控除の勤続年数が重複計算される(以前は5年ルールだったが2022年に改正)。退職金を先に受け取り、19年超の間隔を空けてiDeCoを一時金で受け取れば、それぞれ満額の退職所得控除を使える(国税庁「退職所得」)。
年金受取の場合
公的年金等控除が適用される。65歳以上なら年間110万円まで非課税だが、厚生年金や企業年金と合算して判定されるため、年金収入が多い人は課税されやすい。
結論から言うと、最適な受取方法は退職金の有無・金額・受取時期によって大きく変わる。改正で積立額が増えるこのタイミングで、ざっくりでもシミュレーションしておくことを勧める。
注意点|改正で変わらないこと・落とし穴
上限引き上げで「とにかく満額積もう」と考える前に、以下の点も押さえておきたい。
60歳までの引き出し制限は変わらない
iDeCoは原則60歳まで引き出せない。生活防衛資金を確保したうえで、余裕資金で拠出すること。副業収入がある人は、収入の変動を考慮して無理のない金額を設定しよう。
手数料は自己負担
iDeCoには加入時手数料(2,829円)、毎月の口座管理手数料(171円〜)がかかる。掛金を増やしても手数料は変わらないため、増額するほど手数料比率は下がる(2026年5月時点、iDeCo公式サイト「手数料」)。
特別法人税の凍結延長に注意
iDeCoの積立残高に対して年1.173%が課税される「特別法人税」は、1999年から凍結が続いている。2026年度税制改正大綱でも凍結延長の方針が示されているが、将来の復活リスクはゼロではない。
FAQ
企業型DCのマッチング拠出とiDeCoは併用できる?
できない。マッチング拠出を利用中の場合、iDeCoに加入するにはマッチング拠出をやめる必要がある。どちらが有利かは事業主掛金額と運用商品で異なるため、個別に比較が必要だ。
公務員のiDeCo上限はいくらになる?
2026年12月の改正後、公務員のiDeCo上限は月6.2万円(共済掛金等との合算枠)に引き上げられる。現行の月1.2万円から大幅な拡大となる。
iDeCoの金融機関は途中で変更できる?
変更可能だが、移換手続きに1〜2ヶ月かかり、その間は売却・運用停止となる。手数料や商品ラインナップを比較し、変更する場合は改正前の余裕があるうちに手続きするのがよい。
専業主婦・主夫のiDeCo上限は変わる?
第3号被保険者(専業主婦・主夫)の上限は月2.3万円のまま変更なし。今回の改正は主に第2号被保険者(会社員・公務員)が対象だ。
掛金の変更はいつでもできる?
iDeCoの掛金変更は年1回(12月分〜翌年11月分)可能。変更届の提出から反映まで1〜2ヶ月かかるため、2026年12月の施行に合わせるなら2026年10月頃の届出が目安になる。
参考文献
- 確定拠出年金制度の概要 — 厚生労働省
- iDeCo公式サイト — 国民年金基金連合会
- 退職所得(税額の計算方法) — 国税庁
- iDeCo(個人型確定拠出年金) — 国民年金基金連合会
- NISA・DC制度改正について — 金融庁