2025年1月、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が報告書を公表し、副業・兼業における労働時間通算ルールの見直しが正式に提言された。約40年ぶりとなる労働基準法の大改正の一環で、会社員の副業環境は大きく変わる見通しだ。

結論から言うと、改正案では割増賃金の計算における労働時間の通算が廃止される方向だ。つまり副業先の企業が本業の労働時間を気にせずに雇用できるようになり、副業の受け入れハードルが下がる。

ただし、2026年5月時点で法案の国会提出は見送られており、施行は2027年以降になる見込みだ。本記事では、会社員が副業を始める・続けるうえで押さえておくべき5つの変更点と、今から準備できることを整理する。

現行の労働時間通算ルールが副業を阻む理由

現行の労働基準法第38条では、事業主が異なる場合であっても労働時間は通算されると規定されている。たとえば本業で8時間働いた後に副業先で2時間働くと、合計10時間のうち2時間が法定時間外労働となり、副業先に25%以上の割増賃金が発生する。

自分もクラウドソーシングを始める前に短期バイトを掛け持ちしていた時期があるが、副業先から「本業のシフトを毎回教えてほしい」と言われて、管理の面倒さに驚いた記憶がある。

この仕組みが副業推進を阻んでいる理由は主に3つある。

  • 副業先のコスト増: 本業でフルタイム勤務の人を雇うと、1時間目から割増賃金が発生する可能性がある
  • 実務上の管理が困難: 副業者の本業での労働時間を正確に把握する手段が乏しく、残業代の未払いリスクが企業に残る
  • 企業の副業解禁を躊躇させる: 自社の従業員が副業先で何時間働いたかの把握義務が負担となり、副業を原則禁止にする企業が多い

厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2025年3月改訂版)でも、労働時間の通算管理が企業の大きな負担になっている点が指摘されている。

変更点1: 割増賃金の労働時間通算が廃止される

改正案の最大の目玉は、事業主が異なる場合の割増賃金計算において労働時間の通算を不要にする点だ。

具体的には、本業で8時間・副業先で3時間働いても、副業先は自社の3時間だけで割増賃金を判断する。副業先の法定労働時間(1日8時間)以内であれば、割増賃金は発生しない。

これにより以下の変化が見込まれる。

  • 副業者を受け入れる企業の人件費コストが大幅に下がる
  • 「本業の勤務時間を申告してください」という管理が不要になる
  • 結果として、副業OKの求人が増える可能性が高い

この方針は、2025年1月8日に公表された労働基準関係法制研究会の報告書で明記されている。

変更点2: 健康確保のための労働時間把握は継続

「通算が廃止される」と聞くと、「副業で何時間働いても管理されないのか」と思うかもしれない。しかし、健康確保を目的とした労働時間の通算は維持される方針だ。

つまり、割増賃金の計算では通算しないが、過労防止の観点からは本業+副業の合計労働時間を把握する仕組みが残る。企業の安全配慮義務も継続される。

会社員にとっての実務的な影響は以下のとおり。

  • 副業の労働時間を自己申告する仕組みは残る見込み
  • 本業+副業の合計が長時間になると、企業から指導が入る可能性がある
  • 「割増賃金は不要だが、働きすぎの把握は必要」という二層構造になる

労働組合側からも「割増賃金の通算廃止で長時間労働が野放しになるのでは」という懸念が出ており、健康管理措置の具体的な運用方法は今後の審議会で詰められる予定だ。

変更点3: 勤務間インターバル制度の義務化(11時間)

労基法改正では、終業から翌日の始業まで最低11時間の休息を確保する「勤務間インターバル制度」の義務化も検討されている。現在は努力義務にとどまっているが、これが法的義務になると副業のスケジュールに直接影響する。

たとえば本業が18時に終わる場合、翌朝5時までが休息時間となり、この間に副業を入れることはできなくなる。夜間に副業をしていた人は、時間帯の見直しが必要になるだろう。

ただし、副業がクラウドソーシングやフリーランス型(業務委託契約)の場合は、雇用関係がないためこの規制の直接の対象外となる可能性がある。ランサーズやクラウドワークスでの受託作業は、自分で作業時間を管理する形になるため、実質的な影響は限定的だ。

一方、コンビニや飲食店などアルバイト型の副業をしている場合は注意が必要だ。本業と副業の勤務時間を合わせてインターバルが確保されているか、チェックする習慣をつけておこう。

変更点4: 連続勤務の上限が13日に制限される

改正案では、14日以上の連続勤務が禁止される方向だ。現行法では変形休日制を使えば最大24日間の連続勤務が可能だが、これが最大13日に制限される。

副業をしている会社員にとって、これは「本業の出勤日+副業の稼働日」を合わせて13日を超えないよう管理する必要が出てくることを意味する。

とくに月末や繁忙期に本業が忙しく、さらに副業案件の納期も重なるケースでは、意識的に休日を確保しないと法的に問題になる可能性がある。クラウドソーシングで活動している場合、案件の受注タイミングを調整して、最低でも2週間に1日は完全オフの日を作るのが現実的だ。

変更点5: つながらない権利のガイドライン策定

業務時間外の連絡に応じない「つながらない権利」に関するガイドラインの策定も検討されている。法的義務ではなくガイドラインだが、企業の運用に影響を与えることは間違いない。

副業をする会社員にとっては、本業の終業後に「業務連絡が来ない」環境が整うことで、副業に集中できる時間が確保しやすくなる。逆に言えば、本業の上司から夜間に連絡が来て副業の作業時間が削られる、という悩みが軽減される可能性がある。

ただし、これはあくまでガイドラインであり、企業によって対応にバラつきが出る見込みだ。副業を始める際は、自社の「つながらない権利」に関する方針を確認しておくとよいだろう。

2026年国会提出は見送り|今後のスケジュール

重要な注意点として、2026年通常国会への法案提出は見送りになっている。2025年12月26日、当時の上野賢一郎厚生労働大臣が記者会見で「現在のところ提出は考えていない」と明言した。

見送りの背景には、規制強化(労働者保護)と規制緩和(企業の柔軟性確保)の方向性の調整がつかなかったことがある。2025年10月には首相から「労働時間規制緩和」の検討指示も出ており、議論が拡大した結果だ。

2026年5月時点での見通しは以下のとおり。

  • 審議継続中: 労働政策審議会で引き続き詳細を議論
  • 2027年通常国会での提出が有力: ただし政治状況次第で変動の可能性あり
  • 施行は早くて2027年後半〜2028年: 公布後の周知期間を考慮

法案が成立していない現時点でも、改正の方向性は報告書で明確に示されている。今のうちから副業の準備を進めておけば、制度が変わったタイミングですぐに動ける。

改正前から準備すべき3つのこと

法改正を待たずに、会社員が今から準備できることを3つ挙げる。

1. 自社の副業規定を確認する

まず本業の就業規則で副業に関するルールを確認しよう。「届出制」「許可制」「原則禁止」など企業によって対応は異なる。2018年に厚生労働省がモデル就業規則から「副業禁止」の規定を削除して以降、副業を認める企業は増えているが、届出が必要なケースが大半だ。

2. 業務委託型の副業スキルを磨く

労働時間通算の影響を受けにくいのは、雇用契約ではなく業務委託契約の副業だ。クラウドソーシングでのライティング、Web制作、デザインなどは業務委託が基本であり、自分の裁量で作業時間を決められる。勤務間インターバルの規制対象外になる可能性も高い。

クラウドソーシング歴8年の経験から言えば、最初の案件獲得までが一番ハードルが高い。法改正を待つ間にプロフィールを整え、小さな案件で実績を積んでおくことを勧める。

3. 労働時間の自己管理を始める

健康確保のための通算は維持されるため、本業と副業の合計労働時間を記録する習慣をつけておこう。Googleスプレッドシートでも手帳でもよい。週の合計労働時間を可視化することで、無理のないペースで副業を続けられる。

FAQ

労働時間通算の廃止はいつから施行される?

2026年5月時点で法案は国会に提出されていない。2027年通常国会での提出が有力視されており、施行は早くて2027年後半〜2028年の見込みだ。政治状況によって前後する可能性がある。

業務委託の副業でも労働時間通算の影響を受ける?

労基法の労働時間規制は「雇用契約」に適用される。クラウドソーシングやフリーランスなど業務委託契約の副業は、現行法でも通算の対象外だ。ただし、実態が雇用に近い場合は「偽装請負」と判断されるリスクがある。

副業の労働時間を会社に申告しないとどうなる?

現行ルールでは、副業先の労働時間を自己申告する仕組みが前提とされている。虚偽申告は就業規則違反となる可能性がある。改正後も健康確保のための申告は残る見込みなので、正確な記録を心がけよう。

改正で副業禁止の会社も副業OKになる?

今回の改正は労働時間の通算ルール見直しが中心であり、企業に副業許可を義務づける内容は含まれていない(2026年5月時点)。副業の可否は引き続き各企業の就業規則による。ただし通算廃止で企業の管理負担が減るため、副業を解禁する企業が増える可能性はある。

本業が繁忙期でも副業を続けて大丈夫?

連続勤務の上限規制(13日)や勤務間インターバル(11時間)が導入されれば、本業の繁忙期に副業を詰め込むことは法的に難しくなる。繁忙期は副業のペースを落とす、納期に余裕のある案件を選ぶなど、メリハリのある働き方を意識しよう。

参考文献